インタビュー

インタビュー vol.2「海洋汚染とプラスチック~利便性と経済活動最優先との引き換えになる影響とは~」

3年ほど前より、SUP(Stand Up Paddle Board スタンドアップパドルボード)での海洋のごみ拾い活動を積極的に行っている水本健介さんにお話を伺いました。

海洋ごみに関心をもちはじめたのはいつからですか?

 海運関係の会社に勤務している関係上、海とのつながりは人より深いというのは事実です。
 2008年、江ノ島でビーチクリーンアップに参加しましたが、ゴミの少ない片瀬東浜に、何百人もが群がって、無駄に、ほぼ空のビニール袋がどんどん捨てられていく中で、すぐ横の漁港には大量のプラゴミが流れ着いているのに誰も気付かず、私と嫁さんの二人だけで大型のビニール袋10袋程度拾ったのが、今から思えば初めて海洋ごみについて真剣に考えた時でした。

なぜ、自分でごみ拾いをしようと思ったのですか?

 2014年にSUPを始め、長谷の坂の下を母港として、これまでに約200航海、南は城ヶ島から西は烏帽子岩・柳島キャンプ場までを漕ぎ渡ってきました。
 その中で、特に葉山町の芝崎・長者ヶ崎については、海流の関係上、大量のゴミが漂着するにも拘らず、アクセスのし辛さなどから、漂着したゴミが長年に亘り放置されていました。年に1,2回、近くのSUP教室やシーカヤック愛好家たちが清掃しているようなのですが、 焼け石に水で、残念ながら根本的な解決とはなっていません。 私の性格として、誰かがやってくれるのであれば、何の憂いも無くそれに頼るのですが、誰もやらないとなると、放っておけないため、できる範囲でゴミ拾いを始めました。

 もしSUPを始めていなかったら、海洋ゴミ拾いはやっていなかったと思います。芝崎については、15分もあれば全域を清掃できるのに対し、長者ヶ崎は根が深く、2015年の8月に清掃を開始してから10ヶ月後の2016年6月、やっと全海岸線の清掃を完了しました。

 今でも、漂着するゴミとのイタチごっこが続いています。酷い時には、1週間で40kg程度のゴミが漂着します。また風で内陸まで吹き飛ばされたゴミについては、まだ回収しきれていないので、草が枯れる冬場に、鎌を片手に回収作業を行っています。

 

海洋ごみの現状はどのようになっていると思われますか?

 毎年、膨大な量のゴミが海洋投棄されていますが、それが「いけないこと」だと認識している人間が、特に発展途上国には少ないという事実があります。

 仕事でフィリピンを年に3~4回訪れますが、川に面したスラムの、1日家族で数十ペソ(100円以下)程度で暮らしている貧困層に「海にゴミを捨てるな」と言っても、それどころではないため、効果が僅少なことは言うまでもありません。

 日本をはじめとする先進国で、捨てようと思えばゴミ箱にきちんと捨てられるにも拘らず捨てようとしない不届き者が大問題なのは言うまでもないことですが、ゴミ箱どころか、ゴミの回収体制が整備されていない地域の人間たち、とくに貧困層が、自然界で分解できないプラスチックを使っている現状を改めなければ、海洋ごみは今後、加速度的に増加の一途を辿るでしょう。

 一般的に言えるのは、ゴミだらけの海岸にいくら「ごみを捨てるな」の看板を立ててもほとんど効果が無いですが、誰もやっていないことをやるのが苦手な日本人の性格(=みんながやっていると自分もやりたくなる)もあってか、ゴミの無い海岸にゴミを捨てて行く者は稀で、長者ヶ崎については、以前は昼食の弁当ガラを残していく不届き者も多かったですが、最近では、ほとんど見掛けなくなりました。

 

 

プラスチックに囲まれている生活をどう思いますか?

 まず、現在の生活レベルを維持しようとする限り、プラスチックを完全になくすことは不可能だと思っています。 例えば医療関係で、プラスチック無しに現在のレベルを維持することはまず無理でしょう。注射器、呼吸用のチューブ、輸血用のバッグ、どれを取ってもプラスチック無しには安全な医療を保障できないでしょう。 その上で、先にも書いた通り、適切なプラスチックの廃棄ができない環境が世界中でまだまだ多い状況下、これ以上プラスチックを世界中で作り、使い続けることは、人類の寿命を縮めることに他なりません。

 経済活動最優先ではなく、大局的な視点に立った全世界レベルでの規制や義務付けなどを早急に実施せねば、人類は近々、自らが生み出したプラスチックという魔物に埋もれて、自らの命を絶たねばならなくなるでしょう。

 そしてその前に、そして人類が滅んだ後も長年、地球上の多くの生物たちがプラスチックの弊害に苦しめられ、人類と運命を共にするでしょう。

プラスチックや化学物質に囲まれている生活をどう思いますか?

 まず、広義にはプラスチックも化学物質の一であるというべきでしょう。
 その意味で、プラスチックに囲まれているということは、化学物質に囲まれているというべきでありましょう。

 化学物質の一部には、自然界にも存在し、故に自然界への悪影響が僅少、或いは悪影響の無いものもありますが、ほとんどは自然界・生体への悪影響が甚大であるというべきでしょう。特に、自然界では起こり得ない条件で炭化水素を重合して製造するプラスチックについては、利便性という観点以外から、その影響を再評価せねばならないのではないでしょうか。

さらに、今後は長期的な視点に立って悪影響を評価する必要があります。100年単位では影響が出なくても、それ以上の長いスパンで禍根を残す可能性が無いかまで、考えられる技術を、人類は持っています。それを駆使するのか、これまで同様、利便性と経済活動最優先の態度を崩さないのかは、全て人類の心掛けに懸かっています。

現代人、将来の子供たちにむけて、どのような生き方をしていくべきかと思いますか?

 先にも書いた通り、残念ではありますが、完全に「脱プラスチック」「脱化学物質」は不可能だと考えております。その上で、利便性・経済活動至上主義とでもいうべき現状を、そろそろ規制で縛っていかなければ、人類の未来、この惑星の将来が、明るいものになるとは、到底考えられません。特に欧米諸国の考え方として、自由経済が最も重要であるというものがありますが、これは地球が、石油・石炭・天然ガス・鉄鉱石・ボーキサイトといった大量の資源をその表皮に有していてくれたお蔭であって、それらが枯渇する局面では、この考え方が正答であるとは、到底思えません。

 例えば、発展途上国に製品を売り込む企業があるのだとすれば、正当な方法で廃棄するノウハウと、もっと言えば技術・資金援助まで行うことを義務化するのも、決してやり過ぎではないと思います。プラスチック・化学物質は、ある意味で現在の利便性・経済活動至上主義の権化として、生みの親である人類を試しています。

 この挑戦に適切な解を与えられなければ、人類は自らが利便性のために拵えたこれらの物質によって全滅に追い込まれるでしょう。そして、そのX dayは、刻一刻と迫ってきているのです。

プロフィール
水本健介さん
-奈良県、吉野生まれ。
 幼い頃から山に囲まれて育ったため、海への強い憧憬を抱くようになる。
-2014年に息子の幼稚園のお父さん仲間からの紹介でSUPを始める
-2015年8月より長者ヶ崎の清掃に本腰を入れて取り組む
-2016年6月、掃除済の領域が長者ヶ崎の全海岸線に及ぶ
-2017年よりプラスチックフリージャパンのメンバーとして活躍

 

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