インタビュー

インタビュー vol.3「プラスチック袋を使わない自然酵母のぱんやさん

鎌倉坂の下の自宅工房で、自然酵母でオリジナルのパンを焼いている「自然酵母ぱん まん・ま」。自然酵母パンをプラスチック袋を使わずに販売することについて、パン職人の花澤香織さんにお話を伺いました。

自然酵母に注目したのはいつからですか?

いまから15年くらい前の話になります。

私のパンづくりは職場の先輩から手作りのパンを教えていただいたのがきっかけで始まりした。その頃はまだ、自然界にいる酵母と市販の酵母との違いについても良く分かっていませんでしたが、酵母の力で生地が膨らみ、香りが変化し、味わいが深くなる様(さま)は、自分にとって非常に興味深いものでした。

そしてそれから数年間は、ひたすら色々なパンを焼いていました。その最後の課題として残されたのがいわゆる天然酵母のパンでした。市販の酵母を使用せずに、ドライフルーツや小麦粉などに存在する酵母を自分で起こしてから、それを種として発酵させる方法でつくるパンです。なんとなく難しそうでどうなるのか想像がつかないけれど、まずはやってみようと、レーズンから酵母をおこす方法を参考に、何とかパンを焼きました。そしてその時に残ったパン種は捨てるわけにもいかないので、新たに小麦粉を足して種継ぎをしました。

実は何気なくやったその種継ぎから、パン種と私との共同生活が始まります。その後、私は、パンを焼いては種を継ぐ。これをひたすら繰り返し行うようになりました。その繰り返しの中で、私はパン種の中には酵母だけでなく、あらゆる小さな生き物たちが生きているのだということを実感していきました。その時点からパン種の中の小さな生き物たちへの関心が高まり、身の回りのあらゆるところに存在している小さな生き物たちをもっと感じたいと思うようになります。そして促されるように自然の中で酵母が存在していそうなところを探し求め、想像し、実際におこしてパン焼いてみることを繰り返すようになっていきました。

なぜ、自然酵母のパン作りをはじめようと思ったのですか?

自然酵母に関心を寄せるようになってからは、ずっと、種をおこし、パンを焼く、を繰り返してきました。その一連の決まった流れの中に現れる、生き物たちのダイナミックな変化は、それらが「生きてる」という感覚をダイレクトに伝えてくれます。さらに、出来上がったパンをいただくことで、その存在によって私たちが「生かされている」と感じさせてもらえるのです。

私は、その感覚を通じて、一見すると存在していないような場所にも、たしかに存在し、その存在によって自分たちが支えられ、いのちは繋がっているのだという、全体としての一体感を感じました。そして、その一体感によって大きな幸せを感じることができると気づきました。

そしていま、そんな気づきを与えてくれた見えない生き物たちともっと向き合い、その存在自体を大切に思いたい。もっと多くの方々に知ってもらうことで全体としての一体感を高めたい。そんな気持ちで自然酵母のパンを焼いています。

プラスチックや化学物質に囲まれている生活をどう思いますか?

私が生まれた時にはすでにプラスチックや化学物質は日常に色々な形で存在していたと思います。あることが当たり前の世の中になっていました。それらがもたらす便利さも当たり前でむしろ無い状態をイメージすることができないくらいに世の中に浸透していたと思います。

プラスチックや様々な人工的な化学物質は、それが無かった時代から急速に開発が進められ、ここまで浸透してきました。それは、作る側だけでなく使う側も求めてきた結果だと思います。しかし、その裏側では自然環境への影響や使用する自身への影響も明らかになってきているのも事実です。

私は自然酵母でパンを焼く活動を通して、世の中を構成するあらゆるものと自分とがつながっていること、その一体感による大きな幸せを感じています。そのような観点で考えた時、人間社会の充実だけが全てではないと考えています。

自分をとりまくもの全ての存在によって自身が生かされているという感覚をもっと高めて、その存在に対しても感謝を持って生活できたら…と思います。その一つの実践的なこととして、環境に還元されない人工物であるプラスチックや化学物質の使用については、さらなる工夫を持って対処できたらと思っています。

パッケージの工夫をについて

今、実際の取り組みとして行っているのは、パン販売用のパッケージの工夫です。

以前は当たり前のようにビニールのパン用袋を使用していました。しかし、ビニール袋の存在が環境に悪影響を及ぼしている事実を具体的に知ることにより、使用しなくてもよい方法はないのかと考えるようになりました。

その方法としては、単純にビニールを紙に変更することです。しかし、実際の変更に伴う、問題点はすぐに出てきました。紙に変更するとパンがすぐに乾いてしまい、しっとりとした状態が保たれなくなってしまいました。せっかく良い状態でおつくりしてもそれがお客様に届けられないということは自分にとってはかなり苦しいことで、他の手段を探している中で蝋紙の袋を見つけました。さっそく試してみると紙よりも保湿性も優れていて、これであればパッケージとして利用できると思いました。

実際に変更してみては思うのは、袋はどうしても必要なものなのか?ということです。

将来的には、袋自体を必要としない販売スタイルを構築できないかということです。これは今後の課題ですね。今の食品販売のルールも加味しながら何ができるのか今後も検討していきたいと考えています。

私たち現代人との酵母の関りはどういったものでしょうか?

人と酵母のような微生物との関わり合いは、太古の昔から今までも切っても切れない関係で続いています。実際に私たちの体には無数の微生物が存在していて共に生きています。

その中でも酵母は私たちの食べ物にも深く関わり、健やかに生きる術を与えてくれています。さらには、クリーンで整った世の中を目指すような今の時代でもその関係は必然的に持続しています。そのくらい、人と微生物の関係は深いものだと私は思っています。

 ただ、一方でその存在に対する私たちの認識は薄れてきているように感じています。かつて、発酵食品は家庭で手作りされていたのですが、時代の流れと共に、多くが商品として生産され、お店で購入する形式に変換されていったことも原因の1つかもしれません。私はいま、自然酵母のパンを焼く活動を行っていますが、実際に自分の手で触り、関わっていくことでその存在を感じることができると実感しています。そして、その存在を通して、自分たち以外の生きものとのつながりを感じたり、生かされているという実感や全体としての一体感による安心や充足を感じています。そして、そのような感覚を与えてくれる目に見えない存在に対して感謝し、大切にしたいという気持ちを持っています。さらにはそれらが生きている環境そのものに対しても大切にしたいという気持ちが深くなるのを感じています。そういった観点からも現代における小さな生き物たち(酵母など)の存在は私たちに大きな影響を与えてくれる存在だと確信しています。

プロフィール
花澤香織さん

鎌倉坂ノ下にある小さなパン工房「自然酵母ぱん まん・ま」を営む。幼い頃から生き物や自然が大好き。将来の夢はヒトと自然が無理なく共存できる方法を発見して、流行らせること。

お店の情報
https://m.facebook.com/shizenkoubo.mamma/
毎週土曜日 13:30〜17:30 工房販売してます。
工房は鎌倉市坂ノ下2-31にあります。

 

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